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記憶術の種類と選び方|資格試験の暗記に使える6つの方法と使い分け
この記事でわかること
- 資格試験の暗記に使える記憶術の種類と、それぞれが向く物・向かない物
- 数字・順番のある並び・用語と意味など、覚える物の形ごとの方法の選び方
- 方法を組み合わせるときの一例と、よくある失敗
- 宅建・危険物乙4・登録販売者・保育士・公務員試験での考え方
記憶術とは
記憶術とは、覚えたいことを、頭に残りやすい形に変えるための工夫のことです。ただ字面を目で追うかわりに、絵にする、場所に結びつける、言葉の音に直す、といった「手を加える」ところに特徴があります。
資格試験では、数字、順番のある並び、用語とその意味など、覚える物の形がいろいろです。そして、記憶術には得意な形と苦手な形があります。「どの方法がいちばん良いか」を探すより、「今覚えようとしている物に、どの方法が合うか」で選ぶほうが、遠回りになりません。この記事は、その選び方に絞って書きます。
なお、記憶術は理解の代わりにはなりません。意味がわかっていない内容は、覚えても使えません。この記事で扱うのは、「意味はわかったが、数字や並びがどうしても頭に残らない」という場面での道具です。
代表的な6つの方法
ここでは、試験の暗記でよく使われる6つを取り上げます。それぞれ「向く物・向かない物・例」の順に見ていきます。
1. 場所法(メモリーパレス法・記憶の宮殿)
よく知っている場所(自分の家など)の決まった地点に、覚えたい物を絵にして置いていく方法です。思い出すときは、頭の中でその場所を順に歩きます。古代ギリシャ・ローマの時代から伝わる方法で、キケロの著作にもシモニデスの逸話として出てきます[1]。ただし、その逸話が史実かどうかは、疑う意見もあります[1]。
- 向く物:順番のある並び、項目の数が多い一覧、数字や用語を「ひとつずつ置き場所を決めて」覚えたいとき。
- 向かない物:置き場所が足りなくなる大量の文章、意味の理解そのもの。絵にしにくい抽象的な言葉は、ひと工夫が要ります。
- 例:玄関に「クーリング・オフの8日」、台所に「営業保証金の1000万円」、というように、項目を家の中に並べる。
効果の研究もあります。記憶力競技の上位選手と一般の人を比べた研究では、一般の人が6週間、場所法を毎日30分訓練すると、単語の思い出しが大きく伸び、4か月後も残っていました[2]。ランダム化比較試験を集めたメタ分析でも、効果は中程度(g=0.65)でした。ただし、そのメタ分析は、元の研究の偏りのリスクが高いことも指摘しています[3]。
初めての人でも、短時間で覚えた仮想の場所を使って、よく知った場所と同じくらい思い出せたという研究もあります[4]。詳しいやり方は メモリーパレス法のやり方 にまとめています。
2. 語呂合わせ
数字を、読み方の音に当てはめて、意味のある言葉や文にする方法です。
- 向く物:数字、年号、短い並び。
- 向かない物:数字が多すぎて、無理な言葉にしないと作れないもの。似た語呂が増えすぎると、どの語呂がどの項目だったか混ざります。
- 例:「いい国(1192)つくろう」のように、年号を文にする。
語呂は、数字を「言葉」に変える段階までは得意です。でも、その語呂がどの項目の語呂だったかを思い出す手がかりは別に必要です。この点は、あとの「組み合わせ方」で触れます。
3. イメージ化・連想(ストーリー法)
覚えたい物を絵にして、次の物と物語でつなげていく方法です。「Aが、Bを持って、Cに乗って…」というように、項目を話の流れで連ねます。
- 向く物:順番のある並び、数個〜十数個の項目。
- 向かない物:長い一覧。途中の1つを忘れると、話の流れが切れて、その先も出てこなくなりがちです。途中からの抜き出しもしにくいです。
- 例:買い物リストの品を、ひとつながりのおかしな物語にする。
絵は、大げさ、動きがある、見慣れない、といった特徴があると記憶に残りやすいと、昔からよく言われます。ただ、この記事で参照する出典には、その点を直接確かめたものは含まれていません。あくまで「経験的によく言われる」と受け取ってください。
4. 頭文字(アクロニム)
項目の最初の1文字を並べて、読める言葉にする方法です。
- 向く物:項目の名前が短く、「どんな項目があったか」の一覧を思い出したいとき。
- 向かない物:それぞれの項目の中身(数字や条件)。頭文字は「項目の名前の一覧」しか思い出させてくれません。
- 例:項目名の頭文字を並べて、ひとつの合言葉にする。
5. ペグ法
先に「1は○○、2は○○」と、番号ごとの引っかけ棒(ペグ)になる絵を決めておき、覚えたい物をその絵に結びつける方法です。
- 向く物:番号つきの並び。何番目かをすぐ引き出したいとき。
- 向かない物:項目が多いとき。ペグの数だけしか使えないので、数十個以上になると、ペグを覚える手間のほうが重くなります。
- 例:「1=鉛筆、2=白鳥…」のように形の似た絵を決めて、1番目の項目は鉛筆と結びつける。
場所法と似ていますが、置き場所が「自分の家」ではなく「番号の絵」なのが違いです。場所法は、すでに知っている場所を使うので、新しく覚えるペグが要りません。
6. チャンク(まとまりにする)
細かい情報を、いくつかのまとまりにして覚える方法です。電話番号を「03-1234-5678」と区切るのが身近な例です。
- 向く物:長い数字の並び、似た項目が多数あるもの。「3か月のグループ」「2週間のグループ」のように、同じ数字でまとめると整理できます。
- 向かない物:バラバラで共通点のない物。まとまりが作れないからです。
- 例:期間が似た項目を、期間ごとの表にして比べる。
チャンクは、単独で使うより、ほかの方法の前処理として働くことが多いです。まとめてから語呂や絵にすると、作業が減ります。
方法ではなく「練習のしかた」も大事
ここまでは「何に変えて覚えるか」の話でした。もうひとつ、「どう練習するか」という軸があります。これは6つの方法のどれとも組み合わせられます。
思い出す練習(テスト効果)
読み直すより、答えを隠して思い出そうとするほうが、時間がたったあとによく覚えています。ある実験では、読み直した場合より、思い出すテストを受けた場合のほうが、1週間後の成績が良くなりました。ただし、5分後では逆でした[5]。すぐ後の確認だけを見ると、読み直しのほうが良く見えます。
- 向く物:どんな方法で覚えた物にも使えます。
- 注意:すぐ後の点数が低く見えても、気にしすぎないこと。
間をあけたくり返し(分散学習)
同じ回数をくり返すなら、まとめて一度にやるより、間をあけて分けたほうが、長く残りやすいと報告されています[6]。直前に詰め込むより、日を分けて何度か思い出すほうが、本番に近い時期まで残りやすい、ということです。
- 向く物:これもどんな物にも使えます。
- 限界:最適な間隔は、覚える内容や、いつまで覚えておきたいかで変わります。「何日おきが正解」とは言えません。
この2つは、覚え方ではなく「覚えたあとの扱い方」です。どの記憶術を選んでも、土台として足すと考えてください。
使い分けの表:覚える物の形で選ぶ
覚える物の形ごとに、合いそうな方法を表にしました。◎は特に向く、○は使える、△は工夫が要る、-は向きにくい、という目安です。研究で順位をつけたものではなく、各方法の性質からの整理です。
| 覚える物の形 | 場所法 | 語呂合わせ | ストーリー法 | 頭文字 | ペグ法 | チャンク |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 数字(期間・金額など) | ○ | ◎ | △ | - | ○ | ○ |
| 順番のある並び | ◎ | △ | ◎(短い並び) | ○ | ◎ | ○ |
| 用語と意味 | ○ | △ | ○ | △ | △ | - |
| 例外の一覧 | ◎ | △ | ○ | ○(名前だけ) | △ | ○ |
| 図や表 | ○ | - | △ | - | - | ◎ |
表の読み方のコツです。
- 数字は、語呂で「言葉」に変えるのが入口として手軽です。語呂が作れない数字は、絵や場所に直接つなげます。
- 順番のある並びは、場所法かペグ法のように「位置」が決まっている方法が安定します。
- 用語と意味は、記憶術だけに頼らず、まず意味を理解し、思い出す練習(上の[5])で固めるのが基本です。記憶術は「どうしても混ざる組」だけに使うと効率的です。
- 例外の一覧は、数が多くて似ているので、場所法で1つずつ別の場所に分けると、混ざりにくくなります。
- 図や表は、そのまま画像として覚えたり、チャンクにまとめたりするほうが合います。
組み合わせ方の一例
ひとつの方法だけで、すべてを覚える必要はありません。数字を覚えるときの組み合わせの一例を挙げます。強力な組み合わせのひとつではありますが、「これが一番」と決めつけるものではありません。
数字を長く残す流れの一例
- 語呂で、数字を言葉にする。
- その言葉を、大げさな動きのある絵にする。
- 絵を、よく知っている場所に置く。
- 数日あけて、場所を歩いて思い出す。思い出せなかった物は、次は早めにもう一度。
この流れには、それぞれ役割があります。語呂は「数字を言葉にする」、絵は「言葉を目に見える形にする」、場所は「どこに何があったかを決める」、間をあけた思い出しは「長く残す」です。それぞれ、上で見た出典の範囲での根拠があります[2][5][6]。ただし、この4つを全部つなげた流れそのものを、まとめて試した研究は、この記事の出典にはありません。ですので、「自分に合うか」は、少しやってみて確かめてください。
場所に置く作業を、スマホで進めたい場合は、無料の見本の家を2分ほどで歩けます。
資格別の考え方
ここでは、各試験で「どんな物を覚えることが多いか」の一般的な説明と、合いそうな方法を書きます。各試験の具体的な数字や語呂は、この記事では確かめていないため書きません。最新の範囲や数字は、試験の公式情報やお使いの教材で確認してください。
宅建(宅地建物取引士)
期間、金額、面積、割合など、数字が多い試験です。似た数字が多く、混ざりやすいのが悩みどころです。語呂で数字を言葉にし、場所に置いて、間をあけて思い出す流れが合います。具体的な数字の例と手順は、宅建の数字の覚え方に書きました。
危険物取扱者乙種第4類(乙4)
物質の名前と、その性質(引火点、水に溶けるか、比重など)を対応させて覚える場面が多い試験です。「用語と意味」「物質ごとの比較」の形なので、まず比べる表(チャンク)を作り、どうしても混ざる組だけを絵や場所に置く、という使い方が合いそうです。
登録販売者
医薬品の成分名と、その働きや注意点、副作用を対応づける場面が多い試験です。カタカナの長い名前が多いので、名前を音で区切って絵にする、似た成分を表で比べる、といった方法が合いそうです。
保育士
法律・制度の名前、発達の段階、人名と業績の組み合わせなど、「用語と意味」「順番のある並び」が混ざります。発達の段階のような順番ものは場所法やストーリー法、人名と業績の組み合わせは絵での連想が合いそうです。
公務員試験
科目が多く、覚える物の形も、数字、年号、用語、制度の仕組みと幅広いです。1つの方法で全部をこなそうとせず、科目の中の「どうしても残らない部分」だけに記憶術を使い、残りは理解と過去問のくり返しで進めるほうが、現実的です。
どの試験でも共通して言えるのは、記憶術は過去問や講座の代わりではなく、そのすき間を埋める道具だということです。
よくある失敗
- 全部を記憶術で覚えようとする。理解で済む部分まで絵にすると、作る手間のほうが大きくなります。「何度やっても混ざる所」から始めてください。
- 作って満足して、思い出さない。語呂や絵を作るのは楽しいですが、覚えたかどうかは、思い出してみないとわかりません[5]。
- 一度にまとめてやる。1日で全部をくり返すより、日を分けたほうが残りやすいとされます[6]。
- 語呂だけで、何の数字か忘れる。語呂は数字を言葉にしますが、「何の数字か」の手がかりを別に用意しないと、言葉だけが残ります。場所や絵に結びつけると、この問題が減ります。
- 似た項目を同じ場所に置く。混ざる物は、別の場所や別の絵に分けます。
- 効果を過信する。研究には限界があります。場所法のメタ分析も、元の研究の偏りのリスクを指摘しています[3]。向き不向きには個人差があるので、自分の調子を見ながら使ってください。
まとめ
- 記憶術は種類が多く、「どれが最強か」より「覚える物の形に合うか」で選ぶ。
- 数字は語呂、順番のある並びや一覧は場所法・ペグ法、図や表はチャンク、が入口の目安。
- 練習のしかたとして、思い出す練習[5]と、間をあけたくり返し[6]は、どの方法にも足せる。
- 方法は組み合わせられる。語呂→絵→場所→間をあけた思い出し、は一例。
- 記憶術は理解や過去問の代わりではなく、混ざる所を補う道具。
場所法をスマホで試すなら、無料の見本の家から始められます。
出典
- キケロ『弁論家について』第2巻86節(シモニデスの逸話)。スタンフォード哲学百科「Ancient Imagery Mnemonics」 https://plato.stanford.edu/archives/spr2014/entries/mental-imagery/ancient-imagery-mnemonics.html。逸話が史実かは疑う意見もある。
- Dresler M. ほか (2017) Mnemonic Training Reshapes Brain Networks to Support Superior Memory. Neuron. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5439266/
- Twomey C. & Kroneisen M. (2021) The effectiveness of the loci method as a mnemonic device: Meta-analysis. Quarterly Journal of Experimental Psychology. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1747021821993457
- Legge E. L. G. ほか (2012) Building a memory palace in minutes: Equivalent memory performance using virtual versus conventional environments with the Method of Loci. Acta Psychologica. https://www.psych.ualberta.ca/~cml/papers/LeggEtal2012.pdf
- Roediger H. L. & Karpicke J. D. (2006) Test-Enhanced Learning. Psychological Science 17(3). https://psychology.ecu.edu/wp-content/pv-uploads/sites/216/2019/03/Roediger-Karpicke-2006.pdf
- Cepeda N. J. ほか (2006) Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin 132(3). https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.3.354