記憶の宮殿メーカー › メモリーパレス法のやり方
メモリーパレス法(記憶の宮殿)のやり方|作り方5ステップと例・よくある失敗
この記事でわかること
- メモリーパレス法(記憶の宮殿・場所法)が何で、なぜ効くと考えられているか
- 今日から試せる作り方5ステップと、宅建の数字を使った具体例
- うまくいかないときの原因と直し方
- 資格の勉強で向く所と、向かない所
メモリーパレス法とは
メモリーパレス法は、よく知っている場所を「覚える棚」に見立てる記憶術です。覚えたいことを絵(イメージ)にして、その場所の決まった地点に置きます。思い出すときは、頭の中でその場所を歩きます。すると、置いた絵が順番に見えてきます。
呼び名はいくつもあります。日本語では「記憶の宮殿」「場所法」と呼ばれることが多いです。英語では method of loci(ロキ法。lociは「場所」の意味)、memory palace、journey method などと呼ばれます。「ローマン・ルーム」と呼ぶこともあります。細かい違いはありますが、どれも「場所に覚えることを結びつける」という考え方は同じです。この記事では、まとめて「メモリーパレス法」と書きます。
シモニデスの逸話
起源として有名なのが、古代ギリシャの詩人シモニデスの話です。ローマの弁論家キケロが『弁論家について』(第2巻86節)で伝えています[1]。
宴会の最中に、シモニデスは外に呼び出されました。その直後に広間の屋根が崩れ、客たちは見分けがつかない状態になりました。シモニデスは、客が座っていた席の位置を思い出して、一人ひとりを言い当てたといいます。ここから「順序だった場所は、覚えることの手がかりになる」と考えられるようになった、という話です。
ただし、これが史実かどうかについては、疑う意見もあります[1]。「そういう言い伝えがある」くらいに受け取るのがよいでしょう。大事なのは逸話ではなく、次に書く「なぜ効くと考えられているか」のほうです。
なぜ効くと考えられているか
よく言われる理由は、手がかりが増えるからです。ふつうの暗記は、文字や音だけが頼りです。メモリーパレス法では、そこに「場所」と「絵」が加わります。場所は順番を持っているので、「次はどこだっけ」と歩いていけます。絵は印象が強いので、思い出す入り口になります。
研究では、次のことが報告されています。
- 記憶力競技の上位選手と一般の人を比べた研究で、一般の人が6週間、場所法を含む記憶術を毎日30分訓練すると、単語の思い出しが大きく伸び、4か月後も残っていました。脳の結びつき方も、選手に近づいたと報告されています[2]。
- ランダム化比較試験をまとめたメタ分析では、場所法の効果は中程度(g=0.65)でした[3]。
- 初めての人でも、短時間で覚えた仮想の場所を使って、よく知った場所と同じくらい思い出せたという実験があります[4]。
限界も知っておいてください。[2]は人数が多くない研究で、覚えた中身も単語のリストです。[3]のメタ分析では、集めた研究の偏りのリスクが高いことも指摘されています。つまり、「試す価値はあるが、誰にでも同じだけ効くとは言えない」というのが正直なところです。試験の点数が上がるかどうかは、これらの研究からは言えません。
作り方5ステップ
難しい道具はいりません。紙とペンがあれば、10分で最初の一つが作れます。
ステップ1 よく知った場所を選ぶ
最初は、いちばんよく知っている場所にします。自分の家がおすすめです。目をつぶっても歩ける場所なら、「場所を思い出す」ことに頭を使わずにすみます。職場、通学・通勤の道、実家なども使えます。
選ぶときのコツは二つです。ひとつは、順路が自然に決まること。もうひとつは、場所どうしが見分けやすいことです。同じような部屋が並ぶ場所は、あとで混ざりやすくなります。
ステップ2 回る順番と、置く場所(ロキ)を決める
選んだ場所の中で、回る順番を決めます。そして、絵を置く地点を並べます。この地点を「ロキ」と呼びます。たとえば、家なら次のようになります。
玄関のドア → 靴箱 → 廊下の電灯 → リビングのソファ → テレビ → 食卓 → 冷蔵庫 → …
ポイントは三つです。
- いつも同じ順番で回る。時計回りか、入口から奥へ、など一つに決めます。
- 一つのロキは、目に浮かぶ「物」や「場所」にする。「リビング全体」より「ソファ」のほうが絵を置きやすいです。
- ロキどうしは、ほどよく離す。近すぎると絵がぶつかります。
まず5〜10か所を紙に書き出しておきましょう。この順番を暗記しておく必要はありません。歩けば出てきます。
ステップ3 覚えることを絵(イメージ)に変える
次に、覚えたいことを絵にします。文字のままでは、場所に置けません。コツは次のとおりです。
- 大げさにする。普通のものは忘れやすいです。巨大にする、数を増やす、ありえない色にする、などです。
- 動かす。止まった絵より、動いている絵のほうが残りやすいと感じる人が多いです。割れる、燃える、跳ねる、追いかけてくる、など。
- 五感を使う。音、におい、手ざわり、味も足します。
- 自分を入れる。自分が驚く、自分が転ぶ、など。
数字は絵にしにくいので、語呂や、形の似たものに置き換えます。たとえば、8は「タコ(足が8本)」、5は「手(指が5本)」、3は「三日月」、2は「二人」、4は「よっつ」の椅子、など、自分が思いつきやすいもので構いません。他人の語呂より、自分で作った語呂のほうが残る、という人は多いです。
ステップ4 場所に置く:場所と絵を「作用」させる
絵を、ロキに置きます。ただ「そこにある」だけでは弱いので、場所と絵がぶつかる、からむ、こわれる、といった作用を起こします。
悪い例:ドアの横に小さなタコがいる。
よい例:ドアいっぱいの巨大なタコが、ドアノブを8本の足でつかんで、ぐいぐい引っぱっている。
置いたら、その場で5秒ほど、目の前に見えるまで眺めます。急がないことが大切です。
ステップ5 歩いて思い出す。間をあけてくり返す
置いたら、最初から最後まで歩いて、思い出してみます。ここで本や紙を見ないのがポイントです。読み直すより、思い出そうとするテストのほうが、1週間後によく覚えていた、という研究があります(5分後の時点では、読み直しのほうが良かった)[5]。
さらに、くり返しは、一度にまとめてやるより、間をあけたほうが長く残ることが知られています[6]。たとえば、置いた当日、翌日、3日後、1週間後、のように、少しずつ間を広げて歩きます。思い出せなかった所だけ、絵を作り直します。
例:宅建の数字4つを玄関からリビングに置く
宅建(宅地建物取引士)の試験でよく出る数字を、実際に置いてみます。語呂は、この記事のために考えた一例です。自分で作り替えて構いません。
場所の順番は、玄関のドア → 靴箱 → 廊下の電灯 → リビングのソファ、の4か所です。
| 場所 | 覚えること | 絵の作り方 |
|---|---|---|
| 玄関のドア | クーリング・オフは、書面で告げられた日から8日以内 | 巨大なタコ(足が8本)が、玄関のドアの前でカチコチに凍っている。冷たい空気(クーリング)が足もとから流れてくる。 |
| 靴箱 | 宅建業の免許の有効期間は5年 | 靴箱を開けると、免許証を握った大きな手(指が5本)が飛び出して、こちらに握手を求めてくる。 |
| 廊下の電灯 | 専任媒介契約の有効期間は3か月以内 | 廊下の電灯が、三日月(3つの月)になってぶら下がり、「専任だぞ」と一つずつ光る。 |
| リビングのソファ | 接道義務は、幅4m以上の道路に2m以上接する | ソファが4mの長い道路になっていて、その端に、二人が並んで腰かけている(2m接している)。 |
置き終わったら、頭の中で玄関に立ちます。ドアの前には何がいたか。次は靴箱、廊下、リビングと歩いて、それぞれ「クーリング・オフは何日?」と自分に聞いてみましょう。
数字の細かい決まりは、絵に足していきます。たとえば、免許の更新は満了の90日前から30日前まで、専属専任なら報告は1週間に1回以上、専任なら2週間に1回以上、などです。最初から全部入れず、まず「一つの場所に一つの大きな数字」で慣れてから、足すほうが失敗しにくいです。
宅建の数字を、実際にどんな順番で覚えていくかは、宅建の数字を記憶の宮殿で覚えるやり方で詳しく書いています。
ここまでを、スマホで写真を使ってやれるのが「記憶の宮殿メーカー」です。見本の家を2分ほどで歩けます。
よくある失敗と直し方
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 絵がぼんやりしている | 歩いても「何か置いたはず」としか出てこない | もっと大きく、もっと動かす。音・におい・触感を足す。自分が巻きこまれる形にする。 |
| 似た場所が混ざる | 寝室のベッドと客室のベッドなど、どちらに置いたか分からなくなる | 似た場所は、どちらか一方だけ使う。または、一つ飛ばして間をあける。 |
| 一か所に詰めすぎる | 絵が重なって、どれかが消える | 基本は一か所に一つ。慣れたら二つまで、関連づけて連ねる。 |
| 置いたきりで、歩かない | 数日たつと、ほとんど出てこない | 当日、翌日、3日後、1週間後と、間をあけて必ず歩く[5][6]。 |
| 順番がない | ばらばらに置くと、全部を言い切れたか分からない | 入口から奥へ、など一本の順路を決める。番号を付けておく。 |
| 場所が足りない | 覚えることが増えて、置く所が無くなる | 場所を細かく分ける、別の場所を足す。くわしくは場所法で場所が足りないときの増やし方へ。 |
どの失敗でも、共通する直し方は「ためして、思い出せなかった所だけを直す」ことです。最初から完ぺきな絵を作ろうとしなくて構いません。
資格の勉強での使い方
向く所
- 数字:日数、年数、割合、金額の上限など。「何日以内か」を取り違えやすいもの。
- 用語の並び:順番が決まっているもの、手続きの流れ、分類のリスト。
- 例外の一覧:「〜の場合を除く」の「除く」が何個あるか、など。
共通するのは、「理屈では導けず、とにかく覚えるしかない」所です。
向かない所
- 理解が要る所:なぜそうなるのか、条文の趣旨、事例への当てはめ。絵にしても、意味が分かるようにはなりません。
- 量が多すぎる所:絵を作る時間のほうが、ふつうに覚える時間より長くなるものは、無理に使わないほうがよいです。
メモリーパレス法は、過去問を解くことや、講座・テキストで理解することの代わりにはなりません。理解した上で、残った「覚えるだけの部分」を支える道具として使ってください。
勉強全体の中では、「①テキストや講座で分かる → ②過去問で出方を知る → ③覚えるだけの所を、場所法で固める」という流れがおすすめです。
よくある質問
何か所まで置けますか?
決まった上限はありません。ただ、いきなり何十か所も作ると、途中で混ざります。最初は5〜10か所で始め、歩いて思い出せるのを確かめながら増やすのが安全です。
家が狭くても使えますか?
使えます。狭い部屋でも、家具の上・中・下、引き出しの中、壁の棚など、細かく分ければ場所は取れます。それでも足りなければ、職場や通勤の道を足します。詳しくは場所が足りないときの増やし方に書きました。
写真でもいいですか?
いいです。初めての人でも、短時間で覚えた仮想の場所で、よく知った場所と同じくらい思い出せたという実験があります[4]。ただし、実験は特定の条件での結果です。自分の家など、慣れた場所のほうが楽、という人もいます。写真を使うなら、自分がよく知る場所の写真が向いています。
どれくらいで慣れますか?
人によります。1日で感覚をつかむ人もいれば、数週間かかる人もいます。研究では、毎日30分を6週間続けた例があります[2]。ただし、これは研究の条件で、同じ結果が出る保証ではありません。まず一つの場所で、5項目を覚えて、翌日と3日後に歩いてみる。そこから始めてみてください。
絵を作るのに時間がかかりすぎます
最初は誰でもかかります。1項目に1分以上かかるなら、絵を簡単にして構いません。また、語呂や絵が最初から用意されている道具を使う方法もあります。
まとめ
- メモリーパレス法は、よく知った場所に、覚えることを絵にして置いていく方法。
- 作り方は、①場所を選ぶ ②順番とロキを決める ③絵にする ④場所に置いて作用させる ⑤歩いて思い出し、間をあけてくり返す。
- 効果は研究で報告されているが、偏りの指摘もあり、誰にでも同じとは言えない[3]。
- 試験勉強では、数字・並び・例外の一覧に向く。理解が要る所や、過去問・講座の代わりにはならない。
- うまくいかないときは、絵を強くする、場所を分ける、歩く回数を間をあけて増やす。
宅建の数字をすぐに試したい方は、見本の家(無料)を2分ほどで歩けます。無料の見本を歩いてみる
出典
- キケロ『弁論家について』第2巻86節(シモニデスの逸話)。スタンフォード哲学百科「Ancient Imagery Mnemonics」 https://plato.stanford.edu/archives/spr2014/entries/mental-imagery/ancient-imagery-mnemonics.html(逸話が史実かは疑う意見もある)
- Dresler M. ほか (2017) Mnemonic Training Reshapes Brain Networks to Support Superior Memory. Neuron. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5439266/
- Twomey C. & Kroneisen M. (2021) The effectiveness of the loci method as a mnemonic device: Meta-analysis. Quarterly Journal of Experimental Psychology. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1747021821993457
- Legge E. L. G. ほか (2012) Building a memory palace in minutes: Equivalent memory performance using virtual versus conventional environments with the Method of Loci. Acta Psychologica. https://www.psych.ualberta.ca/~cml/papers/LeggEtal2012.pdf
- Roediger H. L. & Karpicke J. D. (2006) Test-Enhanced Learning. Psychological Science 17(3). https://psychology.ecu.edu/wp-content/pv-uploads/sites/216/2019/03/Roediger-Karpicke-2006.pdf
- Cepeda N. J. ほか (2006) Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin 132(3). https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.3.354